東京高等裁判所 平成10年(行コ)39号 判決 1998年6月29日
控訴人
東京都知事青島幸男
右指定代理人
小林紀歳
外二名
被控訴人
若林ひとみ
右訴訟代理人弁護士
清水勉
同
谷合周三
同
羽倉佐知子
同
高橋利明
同
塚原英治
同
児玉晃一
同
佃克彦
同
土橋実
同
中野直樹
同
畑中鉄丸
同
堀敏明
同
森田太三
同
横山渡
同
脇田康司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
以下に付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一五頁末行の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 そもそも、本条例によると、都議会は実施機関とされていないのであるが、このことは、東京都においては、都議会が作成し又は取得した公文書は、本条例によってではなく、都議会の自主的な判断に基づいて、都議会が独立してその公開、非公開を決定すべきことを本条例自身が認めたことを意味するというべきである。したがって、都議会が作成した文書については、その開示、非開示の意思決定は都議会自身が行うべきものであって、実施機関である控訴人が取得した都議会の作成した文書の開示を求められた場合であっても、その開示、非開示の決定は都議会の意思を尊重して行うべきものである。
また、本件各文書が開示されるとすれば、控訴人により一方的に都議会議員等の海外出張の旅費(金額)に関する情報及び出張先(旅行経路)のみが開示されることとなるが、他方、その海外出張の必要性を根拠づける旅行命令簿等の原議は都議会の管理する文書として公開されない結果、都議会議員の海外出張についての十分な情報の公開とならないため、都民に対して金額と出張先のみによって当該海外出張の一方的な解釈や誤解を与えかねないのである。もし、本件各文書を開示したことにより、右の誤解が生じた場合、都議会にとっては、この誤解を招来した原因は、一に議会局の回答を無視して、控訴人が本件各文書を開示したことによるものであるとの考えに至ることが容易に想定され、その結果、控訴人と都議会の信頼関係が損なわれるといわざるを得ない。」
2 同一六頁末行の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 そして、このような信頼関係は、もともと当事者間の主観的な関係の中で成立するものであるから、この関係を客観的に判断するのは相当ではない。すなわち、信頼関係を損なうか否かは、すぐれて主観的な関係であるから、当事者間において、これを非開示にしてほしい旨の要望があった場合には、その非開示とする要望が客観的にみて合理的理由があるか否かを問うことなくこれがあるものとして、その要望を尊重してその要望に従うことが信頼関係を維持するためには必要なことである。仮に、都議会が当該公文書の開示を望まないにもかかわらず、その意思に反して、控訴人がこれを開示するとすれば、その文書を開示したということのみによって、控訴人と都議会の信頼関係の維持は困難となるのである。」
3 同二〇頁三行目の「追求」を「追及」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、以下に付加するほかは原判決の事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三二頁五行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 この点について、控訴人は、本条例が都議会を実施機関から除外していることは、都議会が作成した公文書については、都議会の自主的な判断に基づいて、都議会が独立してその公開、非公開を決定すべきことを本条例自身が認めたことを意味するから、都議会が作成した文書の開示、非開示の意思決定は、都議会自身が行うべきものであり、実施機関である控訴人が取得した都議会の作成した文書の開示を求められた場合であっても、その開示、非開示の決定は都議会の意思を尊重して行うべきものである旨主張するけれども、本条例は、右のとおり、公文書開示の対象となり得る都議会において作成された文書についても、都議会が実施機関でないことのゆえに特別な取扱いを認める規定は設けていないのであるから、都議会が実施機関でないことから直ちに、都議会が作成した文書の開示、非開示を都議会の自主的判断に委ね、その意思に従うべきであるということはできず、控訴人の右主張は採用することができない。」
2 同三四頁三行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 控訴人は、このような信頼関係は、もともと関係当事者間の主観的な関係の中で成立するものであるから、この関係を客観的に判断するのは相当ではなく、信頼関係を損なうか否かは、すぐれて主観的な関係であるから、当事者間において、これを非開示にしてほしい旨の要望があった場合には、その非開示とする要望が客観的にみて合理的理由があるか否かを問うことなくこれがあるものとして、その要望を尊重してその要望に従うことが信頼関係を維持するためには必要なことである旨主張するけれども、前記のような本条例の制定目的、本条例の解釈及び運用についての指針等に照らすと、当該文書が「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」であるか否かの判断は、都民からみて客観的に合理性をもったものでなければならず、関係当事者の主観的な関係のみを尊重した右の判断は、到底都民を納得させ得るものではないから、控訴人の右主張を採用することはできない。
なお、以上の考えによると、都議会が当該文書につき非開示の要望をしても、客観的に右開示によって関係当事者間の信頼関係が損なわれるとは認め難い場合には、控訴人はこれを開示しなければならず、それによって都議会の要望は容れられなくなる事態も生ずるが、仮に都議会がそのことのゆえに控訴人に対しことさらに非協力、対立の姿勢をとるなどすれば、そのような都議会の態度は、まさに本条例の趣旨に反するものであり、その法的な責任はともかく、都議会がむしろ都民の厳しい非難を受けることになる。」
3 同三九頁八行目の次に改行のうえ以下のとおり加える。
「 控訴人は、本件各文書の開示によって、都議会議員等の海外出張の旅費(金額)及び出張先(旅行経路)が明らかとなるにとどまり、その海外出張の必要性を根拠づける旅行命令簿等の原議が公開されない結果、都議会議員の出張についての十分な情報が公開されないため、都民に対して当該海外出張についての誤解を与えかねないのであり、もし、本件各文書の開示によって右の誤解が生じた場合、都議会にとっては、この誤解を招来した原因は、控訴人が本件各文書を開示したことによるものであるとの考えに至ることが容易に想定され、その結果、控訴人と都議会の信頼関係が損なわれる旨主張する。しかしながら、本条例に基づいて本件各文書が開示されることによって都議会議員等の海外出張の旅費(金額)及び出張先(旅行経路)が明らかとなるにとどまり、右海外出張に関するそれ以上の情報が開示されることがないとしても、それは本条例の限界によるものであって、仮に右誤解を与えかねない事態が生じるとしても、そのときは、むしろ都議会のこれに対する適切な対応が求められるのであって、これをもって直ちに、本条例九条八号にいう「関係当事者間の信頼関係が損なわれる」場合ということはできず、本件各文書を非開示とすべき事由となるものではない。したがって、控訴人の右主張も採用することができない。」
二 よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官河野信夫 裁判官宮﨑公男 裁判官坂井満)